モスバーガーとサイゼリヤ、二つの戦略その選択を、どう続けているか
公開 2026年10月29日

この記事は「モスバーガーとサイゼリヤ、二つの戦略」の後編です。前編から読む
「注文したくなる価格」と価格の幅、2026年の価格改定で据え置いたもの、会社が運営する店と加盟店。選んだ手間の置き場所を、両社がどう続けているのかを追う後編です。
前編では、サイゼリヤが手間を工場に寄せて店の作業を減らし、モスが丸のまま届く野菜を店で仕込んで注文後につくる、という違いを見た(前編「手間をどこに置いたか」)。サイゼリヤは値下げで原価率が上がり客単価が下がったことを自ら書き、モスは店内調理について「効率よりも品質を優先する」と書いていた。
選んだ手間の置き場所は、一度決めれば続くものではない。原材料もエネルギーも人件費も上がるなかで、両社はその仕組みを、どんな値段と、どんな店の形で続けているのか。後編では、値段の決め方、2026年の価格改定、店をだれが運営しているのかを、会社の公開資料から追う。前編と同じく、公表されていること・会社の説明・NouManの読み解き(枠の中や「〜と読める」)を書き分けている。
先にまとめると
- サイゼリヤは「注文したくなる価格」、モスは価格の幅を基準にする
- 2026年の改定の理由の言葉はほぼ同じ。据え置いたものは違う
- サイゼリヤは会社が店を運営し、モスは店の約8割が加盟店
(いずれも会社の説明・公表資料から)
1.値段の基準:一つの水準か、幅か
サイゼリヤの値段の考え方は、創業のころにさかのぼる。採用サイトによれば、客が集まらない日が続き、創業者は価格を「相場の7割引きにする実験」を始めた。行列ができ、客が客を連れてくるようになった。「ここからサイゼリヤの価格は『注文したくなる価格』を基準とし」と、採用サイトは書く。前編で見た1999年のドリアの値下げも、同じ向きの判断に見える。
モスは、一つの水準ではなく幅を持たせる。統合報告は、レギュラー、プレミアム、超プレミアムのように「付加価値とそれに見合う価格帯によって商品提案の幅を持たせる」ことを「価格のグラデーション化戦略」と呼ぶ。たとえば、ある日は家族との日常使いにレギュラーを、別の日は自分へのご褒美にプレミアムを選ぶ。「同じお客様の中にある多様なニーズを、一つのブランドの中で受け止めていくことがこの戦略の本質」だという。背景には、インフレによる節約志向や、特別な日の高価格志向、共働き世帯の増加がある、と会社は書いている。
2026年3月期、国内のモスバーガーの既存店の客単価は前の年より2.5%高くなった。会社はその理由に、その年度までの価格改定とこのグラデーション化戦略を挙げている(2026年7月の改定より前の話だ)。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
サイゼリヤは「注文したくなる」一つの水準を先に置き、それを守るための仕組みを工場の側につくってきた。モスは、店で手間をかける商品を残したまま、値段の幅で客の選び方を広げている。前編で見た手間の置き場所と、値段の決め方は、それぞれの会社の中で同じ向きを向いている、と読める。ただし、サイゼリヤは品質と価格を工場の仕組みと結び付けて説明しているものの、「注文したくなる価格」という基準と工場を結んだ説明はない。モスの資料にも、価格の幅と店の手作業を結んだ説明はない。
2.2026年の改定:同じ言葉、違う据え置き
2026年、両社は価格を改定した。
モスは7月6日に発表し、7月15日から全国の店(一部の店を除く)で改定した。モスバーガーは470円から500円に、テリヤキバーガーは470円から490円になった(いずれも税込)。理由はこう書かれている。「昨今、各種原材料費や人件費、エネルギーコスト等の上昇が長期化しております。今後も商品の品質を保ち、お客様へ安定して商品をお届けするため、商品価格を改定いたします」。
サイゼリヤは10月14日に発表し、10月29日から、メニュー全般で平均6%の改定をした。税込300円だったミラノ風ドリアは320円に、400円のメニューは420〜430円になった。都市部やレジャー施設周辺の一部の店(24店)は平均10%の改定で、ドリアは330円になった。一部の店は10月21日から先に改定し、10月25日・28日から改定した店もある。理由はこうだ。「昨今の原材料価格の高騰や、エネルギー等のコスト上昇が続く中、当社ではこれまで価格維持に向けた取り組みを進めてまいりました。しかしながら、当社の努力不足により、食材の不足や原価上昇を吸収できない事態が発生しております。慎重に検討した結果、今後も商品の品質を維持し安定して提供していくため、価格改定を実施させていただきます」。
理由の言葉は、ほぼ同じだ。どちらもコストの上昇が続いていることから書き始め、品質を「保ち」「維持し」、商品を安定して「届ける」「提供していく」ためと結ぶ。
違うのは、何を据え置いたかである。
| サイゼリヤ | モス | |
|---|---|---|
| 発表と改定の日 | 2026年10月14日発表、10月29日から(一部の店は先行) | 2026年7月6日発表、7月15日から(一部の店を除く) |
| 改定の示し方 | メニュー全般で平均6%(24店は平均10%) | 商品ごとの例を示す |
| 据え置いたもの | 「当社の提案商品である『フレッシュワイン』」と、「お得にお楽しみいただける『ランチ』『モーニング限定メニュー』」 | フレンチフライポテトと炭酸ドリンクのLサイズ、スープ類など |
| 店による違い | 都市部やレジャー施設周辺の一部の店(24店)は地域価格(理由は書かれていない) | 「一部店舗では価格が異なる場合があります」 |
2社の値段を比べる表ではない。料理も食べ方も違い、改定率も示し方が違う。
サイゼリヤは、据え置いた商品に「提案商品」「お得にお楽しみいただける」と添えている。モスは、据え置いた商品を挙げるだけで、理由は書いていない。
サイゼリヤの改定には、もう一つの意味がある。2026年8月期の決算短信は、これまでの方針をこう書く。原材料やエネルギーのコストが上がるなかで「メニュー価格維持という方針で行ってまいりました」。そのうえで、「商品の品質を維持し安定して提供していくためのメニュー価格改定は状況に応じて行う方針としてまいります」とした。値段を先に決めてきた会社が、その値段を状況に応じて動かすと、方針として書いたことになる。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
理由の言葉がほぼ同じなのに、据え置いたものが違う。サイゼリヤが残したのは、会社が自ら「お得」「提案商品」と呼ぶランチ・モーニング限定メニューとワインで、モスが残したのは大きいサイズとスープ類などだ。モスは据え置きの理由を書いておらず、サイゼリヤも添えた言葉以上の説明はしていない。違いは、据え置いたものの並びとして見ておくにとどめる。
サイゼリヤのお知らせにも目が留まる。「これまで価格維持に向けた取り組みを進めてまいりました」と書き、続けて「当社の努力不足により、食材の不足や原価上昇を吸収できない事態が発生しております」と書いた。値段を据え置く取り組みを続けてきたことと、それでも吸収できなかったことを、会社は自分の言葉で並べている。
3.店をだれが運営するか
手間を置いた場所で、実際にだれが働いているのか。ここでも両社は違う。
サイゼリヤの有価証券報告書は、会社が国内で「『サイゼリヤ』を全国に1,053店舗運営」していると書く(2025年8月末)。国内の店はその後1,070店になった(2026年8月末)。報告書にフランチャイズ(加盟店)の記載はなく、売上は「顧客に商品を引き渡した時点」で計上される。店の売上が、そのまま会社の売上になる形と読める。なぜ加盟店ではなく会社が店を運営するのか、その理由は今回読んだ公開資料には述べられていない。

モスの国内の店は1,310店で、そのうち1,081店が加盟店、229店が直営店だ(2026年3月末)。加盟店の割合は約82.5%になる(NouManの計算)。
国内の店を、だれが運営しているか(店の数に占める割合)
※サイゼリヤは有価証券報告書に、国内1,053店を会社が運営すると書いています(フランチャイズの記載はありません)。2026年8月末の国内の店は1,070店
対象: 両社の国内の店、サイゼリヤ 2025年8月末、モス 2026年3月末/単位: %(その会社の国内の店の数に占める割合)/店の数は公表値。割合はNouManの計算(1,081÷1,310 など)。サイゼリヤの100%は、有価証券報告書が国内1,053店を会社が運営すると書き、加盟店(フランチャイズ)の記載がないことからのNouManの読み
出典: サイゼリヤ 有価証券報告書 第53期(2025年8月期)7頁、2026年8月期 決算説明会資料 9頁/モスフードサービス 有価証券報告書 第54期(2026年3月期)27頁
モスは加盟店との関係を、自らの言葉で説明している。加盟店の会「モスバーガー共栄会」は、「『FCビジネスは人を信じることから始まる』との信念から」40年以上前に発足した。2006年には、加盟の契約を自動更新から5年ごとの「契約再締結」に変えた。統合報告の社長メッセージは、これを双方が「次の5年もともに歩む意志があるか」を確かめ合うプロセスと書く。2026年度から新しい5年の契約期間が始まり、「『外部環境は厳しくとも、本部と一緒に乗り越える』という覚悟を決めた方だけが、契約を再締結し」たという。
本部は、食材をはじめ、包装資材や厨房機器、看板まで、店の営業に必要なものの「ほぼ全てを加盟店に供給」している。国内のモスバーガー事業の売上(2026年3月期、約840億円)のうち約64.9%は「加盟店への卸売上高」で、その中身は主に食材や包材の販売だ。直営店と加盟店の店の売上を合わせた約1,477億円は、会社の売上とは一致しない、と有価証券報告書は注記している。
モスの国内モスバーガー事業の売上の内訳
※加盟店への卸売上高は、主に加盟店への食材・包材などの販売(会社の説明)
※サイゼリヤの売上とは仕組みが違うため、並べていません。端数処理により、合計が一致しない場合があります
対象: モスの国内モスバーガー事業、2026年3月期/単位: %(国内モスバーガー事業の売上に占める割合)/金額は公表値。割合はNouManの計算(54,498÷83,993 など)
出典: モスフードサービス 有価証券報告書 第54期(2026年3月期)27頁・120頁
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
前編で見たモスの手間、つまり店で生野菜を仕込み、注文後につくる手作業の多くは、加盟店の店で行われていることになる。本部は食材や資材をそろえて届け、契約は5年ごとに結び直す。手間を店に置く選択は、加盟店と本部の約束によって続けられている、と読める。
サイゼリヤは、手間を工場に寄せ、店は会社が運営する。工場から店への配送の形を工夫して店の作業を減らすことも、店の作業を標準化することも、有価証券報告書は会社自身の課題として挙げていた。ただし、会社が店を運営することと、工場に手間を寄せることの関係を、サイゼリヤは説明していない。ここでも、つながりは資料を並べたときの見え方にとどまる。
4.判断を年の順に並べる
両社の資料に残る判断と、その後の変化を、年の順に並べる。
| 年 | サイゼリヤ | モス |
|---|---|---|
| 1972年 | ― | 東京・成増に実験店。注文を受けてからつくる方式は「創業以来」(採用の経緯は書かれていない) |
| 1980年 | ― | 加盟店の会「モスバーガー共栄会」発足 |
| 1995年 | 店のオーブンをコンベア型に。「だれでも一定の品質の料理が作れ」る | ― |
| 1997年 | 最初の工場(吉川)。「店舗作業の負担軽減を目的に」 | ― |
| 1999年 | ドリアを480円から290円に。原価率は上がり、客単価は下がった | ― |
| 2000〜2001年 | オーストラリアに子会社、福島に精米の工場(「販売量の拡大に伴い」) | ― |
| 2006年 | ― | 加盟の契約を5年ごとの再締結に。モスファームの設立が始まる |
| 2026年 | 10月、価格の方針を「状況に応じて」改定に。10月29日から平均6%の改定 | 7月15日に価格改定。新しい5年の契約期間が始まる |
並べると、サイゼリヤの判断は工場と店の作業に、モスの判断は加盟店との関係と産地に、集まって見える。どちらの会社も、その選択を一度で終わらせず、数年から数十年かけて続け、ときに方針を書き換えている。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
両社は、選んだ手間の置き場所を、値段と運営の形で支え続けてきた、と読める。サイゼリヤは一つの価格の水準を先に決め、量を工場で受け止め、店の作業を減らしてきた。そして2026年、その価格を状況に応じて動かすと書いた。モスは店に手作業を残し、効率化で生んだ余力を接客に回し、値段には幅を持たせ、加盟店とは5年ごとに約束を確かめ直している。
どちらが正しいという話ではない。売上や店の数の大小も、ここでは比べていない。この2社の資料から読み取れるのは、手間の置き場所が違えば、それを支える値段の決め方と店の運営の形も違っている、ということだ。そして両社とも、その中身を自分の言葉で書き、ときに書き換えている。
自分の仕事で、手間をかけている工程はどこか。その手間は、値段で支えているのか、だれかとの約束で支えているのか。両社が自ら書き残した判断を並べると、そんな問いが手元に残る。
補足
この記事は、2026年10月29日時点の公開資料をもとにしています。最新情報は、各社の公式サイト等でご確認ください。
出典
- 10月29日(木)価格改定のお知らせ 発表(PDF)
- 地域価格店舗のお知らせ 発表(PDF)
- 価格改定 先行開始店舗のお知らせ 発表(PDF)
- 2026年8月期 決算短信(p.2) 公式IR(PDF)
- 2026年8月期 決算説明会資料(p.9) 公式IR(PDF)
- 有価証券報告書 第53期(2025年8月期、沿革・事業の内容) 公式IR(PDF)
- 「おいしさ」の考え方(採用サイト) 資料を開く
- MOS REPORT 2026(統合報告) 公式IR(PDF)
- 有価証券報告書 第54期(2026年3月期) EDINET(PDF)
- 2026年3月期 決算説明資料(p.5・p.6) 公式IR(PDF)
- モスバーガー店舗 商品価格改定のお知らせ 発表(PDF)
- メニュー(公式サイト) 資料を開く
- 自社工場の取り組み(公式サイト) 資料を開く
- サイゼリヤの歩み(採用サイト) 資料を開く
- 沿革 1972年〜1989年(企業サイト) 資料を開く
- 「モスの生野菜」店頭販売を本格的に開始 発表(PDF)
- 取引先とともに(企業サイト) 資料を開く












