サイゼリヤは、畑とどうつながっているのかレタスの苗・規格・量・集荷と、原価が上がるいまの見直し
公開 2026年10月29日
この記事は「サイゼリヤ、ミラノ風ドリアの一皿をたどる」の後編です。前編から読む
福島工場で育てたレタスの苗を契約農家に渡し、規格と購入量を決め、専用のコンテナで集める。サイゼリヤの畑とのつながりと、為替や食材の値上がりで原価が上がるいまの見直しを、会社の公開資料で追う後編です。農家の野菜が一皿にどうつながるのかを考えます。
前編では、創業者の正垣泰彦氏が著書の題『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』に込めた、お客の選択から学び直す姿勢から出発し、1999年の値下げで増えたドリアの量に合わせて福島工場が建てられたこと、店の作業を軽くする工夫が重ねられてきたことを見ました(前編「値下げのあとの工場と、店の工夫」)。
後編では、ドリアの米を炊くその福島工場から畑の側へたどり、レタスの苗と契約農家との約束、原価が上がるいまの見直しを見たうえで、野菜を育てて売る側から一皿へのつながりを考えます。前編と同じく、公表されていること・会社の説明・NouManの読み解き(枠の中や「〜と読めます」「〜と見えます」)を書き分けています。
先にまとめると
- 福島工場はレタスの苗を育てて契約農家に渡し、サラダ用の集荷と出荷も担う
- 契約農家と規格や購入量を決め、規格では見た目より鮮度を重視したと会社は説明
- 国内の原価率は48.3%に上昇。組織・工場・メニュー・価格の方針に手を入れる
1.畑とのつながり:苗・規格・量・集荷
ドリアの米とソースは工場でつくられます。では、サラダの野菜はどうでしょうか。サイゼリヤの野菜との関わりは、レタスを中心に、長い時間をかけてつくられてきました。
高原を開拓し、苗から関わる
公式サイトのサラダの紹介によると、「まだ18店舗だった頃に福島県・白河の地に農地を取得」し、標高800mの冷涼な土地でレタスの栽培が始まりました。続けて「2000年には、白河高原に東京ドーム約62個分(総面積280ha)の土地を購入」し、苗づくりから自社で行って契約農家に配る体制を整えた、とあります。
同社が就職希望者に向けて、仕事や企業文化を紹介する公式採用サイトは、この高原について、「周りからは無謀だと呆れる声もありましたが、自分たちで失敗をしながら開拓し、『実験農場』として活用できるまでに」なり、そこで「効率よくサラダがつくれる大玉レタス」が生まれた、と紹介しています(その土地のいまの使い方は公表されていません)。
レタスより前には、ルーコラ(ルッコラ)があります。会社は1996年、日本では手に入らなかったこのイタリアの野菜の栽培を、契約農家に依頼しました。採用サイトの歩みは、この取り組みが農林水産大臣賞で表彰されたこと、「外食産業が自店舗専用に委託栽培をする先駆け」となったことを記し、「栽培における難しさを農家とともに経験」したと書いています。
いまの仕組み
いまの仕組みの中心にあるのが、ドリアの米を炊く福島工場です。ここには「契約農家さん向けに提供するレタスの育苗工場」が併設され、レタスの苗を供給し、サラダ用の「集荷と出荷も担っています」と説明されています。
契約農家との関係については、次のように書かれています。
- 「産地の契約農家と規格や購入量を決め、年間を通して安定した出荷ができる仕組みを構築しました」
- 「規格の段階でサイズや見た目ではなく鮮度を重視し、産地で捨てられる野菜を減らしました」
- 「当社の専用コンテナを使うことで農家の梱包作業を軽減」し、段ボールの使用も減らしている(以上、公式サイト「原材料の安定調達」)
- 「サイゼリヤが決めた量を計画通りに生産してもらい、収穫した全量をサイゼリヤで買い上げるため、生産者の方は安定収入が見込めます」(採用サイト)
契約農家の数や地域、品目、価格の決め方、全量の買い上げがどの品目・契約に当てはまるのかは、公開資料には書かれていません。
このほか採用サイトは、東日本大震災の復興支援として仙台でトマト農場を始め、「今ではサイゼリヤにトマトを提供する1つの農場として機能しています」と紹介しています。
サイゼリヤ:レタスの苗から、サラダ用の出荷まで(会社の説明から)
対象: サイゼリヤの契約農家とのつながり(福島工場のレタスの苗と、野菜原料の規格・購入量・集荷)、公式サイト「自社工場の取り組み」、SDGs「原材料の安定調達」(2026年10月21日確認)/いずれも会社の説明。矢印は流れを示すための並べ方で、契約の手順書ではありません。契約農家の数・地域・品目、価格の決め方、専用コンテナがどの品目・産地で使われているかは公表されていません
出典: サイゼリヤ 公式サイト「自社工場の取り組み」(福島工場)、SDGs「原材料の安定調達」
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
並べてみると、サイゼリヤのいまの野菜との関わりは、苗・規格・量・集荷を通じて、畑と工場をつなぐことに重心があると読めます。苗を渡し、規格と量を前もって決め、専用のコンテナで集める。店で「毎日同じサラダ」を出すための準備が、種をまく前の段階から始まっている、ということです。規格の軸を見た目ではなく鮮度に置いたことを、会社は「産地で捨てられる野菜を減らしました」と説明しています。買い手が規格をどう決めるかが、畑で何が売り物になり、何が捨てられるかを左右する。農家の側から見ても、見落とせない点です。
2.いまも続く見直し:原価の変化にどう向き合っているか
こうした仕組みは、できあがって終わりではありません。2026年8月期には、為替や食材の値上がりで、国内の原価が大きく上がりました。
原価の動きを、要因ごとに示す
会社は決算説明資料(決算の内容を投資家向けに説明する資料)で、国内の営業利益が前の年からどう増減したかを、要因ごとに示しています。原価の部分は次のとおりです(会社の分析。△は利益を減らす方向)。
| 要因 | 2025年8月期 | 2026年8月期 |
|---|---|---|
| 為替の影響 | 1.1億円 | △31.7億円 |
| 食材の単価 | △18.8億円(米・レタス・オリーブオイル等が悪化) | △18.7億円(ハンバーグ、チキン等が悪化) |
| 物流費 | △1.4億円 | △6.2億円 |
| メニューミックス(売れる料理の組み合わせの変化) | 12.5億円 | 10.3億円 |
| その他ロスなど | △3.3億円 | 1.6億円 |
| 原価の合計 | △9.9億円 | △44.7億円 |
為替の影響は、円とほかの通貨の交換の割合が変わったことによる影響です。2026年8月期には、原価の要因の中でいちばん大きく利益を減らしました(一般に、円安になると、海外から買う原料の円での値段は上がります)。一方、売れる料理の組み合わせの変化は、2年とも利益を増やす方向に働いています。
公表されていること
国内(サイゼリヤ単体。国内の店と工場の数字)では、売上に対する原価の割合が45.9%(2025年8月期)から48.3%(2026年8月期)に2.4ポイント上がりました。一方、販売費及び一般管理費(人件費・家賃など)の割合は51.2%から48.8%に2.4ポイント下がり、営業利益率は2.9%から3.0%になりました。売上100円に対して、営業利益が3円ほどです(決算説明資料)。
国内の客数と客単価は、次のように動いています(決算説明資料。国内の数字)。
| 期 | 客数 | 客単価 |
|---|---|---|
| 2022年8月期 | 1億2,940万人 | 780円 |
| 2025年8月期 | 2億499万人 | 844円 |
| 2026年8月期 | 2億3,640万人 | 860円 |
2026年8月期は、前の年より客数が15.3%増え、客単価は1.9%上がりました(NouManの計算)。
会社が打っている手
この変化に対して、会社はいくつかの手を示しています。
- 組織: 2026年8月期に、商品の開発・調達・加工・保管・物流に「グローバルな視野で取り組むことができる組織へ変更」した(決算短信。決算の数字を早めに出す資料)
- 工場: 2025年8月期の有価証券報告書(上場している会社が毎年出す、事業と決算の報告書)は、新しい岐阜工場(店で使う食材の加工の施設)に9,500百万円を投じる計画(2026年1月着手、2027年4月完了予定)を載せている
- メニュー: 2026年6月に「既存商品の品質向上のため」グランドメニューを改定した(決算短信)
- 価格の方針: 2026年10月14日の決算短信で、次の方針を示した
公表されていること
「メニュー価格方針は、原材料価格の高騰や、エネルギー等のコスト上昇が続く中、様々な改善取組を行い、メニュー価格維持という方針で行ってまいりました。今後も、ソーシングやサプライチェーンの改善などの改善取組は継続して行ってまいりますが、商品の品質を維持し安定して提供していくためのメニュー価格改定は状況に応じて行う方針としてまいります。」(2026年8月期 決算短信)
同じ10月14日に、会社は「10月29日(木)価格改定のお知らせ」を出しました。メニュー全般で平均6%の改定で、ミラノ風ドリアは税込300円から320円になりました。レジャー施設周辺・都市部の24店は平均10%の改定で、ドリアは330円です。「フレッシュワイン」と「ランチ」「モーニング限定メニュー」の価格は変えない、としています。理由について、お知らせは「当社の努力不足により、食材の不足や原価上昇を吸収できない事態が発生しております」と書き、「今後も商品の品質を維持し安定して提供していくため」に改定すると説明しています。
これらの手がどれだけ効果を上げるかは、まだ数字では分かりません。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
目を引くのは、会社が原価の動きを「為替」「食材の単価」「物流」「料理の組み合わせ」と分けて示し、組織・工場・メニュー・価格と、手を入れる先をいくつも挙げていることです。調達から加工・配送までの工程を自分たちの側に持っていることで、外の条件が変わったときに、どこを見直すかを選べる、と読めます。前編で見た、ドリアの値下げのあとに工場を整えた話や、最初の工場のトラブルから課題をあぶり出したという振り返りと、同じ向きの動きに見えます。ただ、手を打てることと、それで原価の上昇を吸収できることは別で、会社自身も、品質を保って出し続けるための価格の改定を選択肢に入れています。
自分の経営に置き換えるなら、「原価が上がった」をひとまとめにせず、何が、どれだけ動いたのかを分けて見る。そのうえで、自分の手の届く工程がどこかを確かめる。サイゼリヤの資料の示し方は、そのための一つの見本として読めます。
3.農家から見ると:自分の野菜が、一皿につながるまで
ここからは、NouManの読み解きです。サイゼリヤが特定の作物・規格・産地を求めている、あるいは仕入れ先を募集しているという意味ではありません。ここまでの事実を、野菜を育てて売る側から見直してみます。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
- 一皿から逆算する買い手がいる。 ドリアのように、何年も同じ料理を出す買い手は、店の販売から数か月〜数年先の量を見込み、それを産地と工場の計画に落とし込もうとします。自分の野菜は、取引先のどんな料理や商品に、どれくらいの期間、どれくらいの量使われているでしょうか。それが見えると、自分の作物の役割の見え方も変わるかもしれません
- 見た目以外の価値。 サイゼリヤは、規格の段階で「サイズや見た目ではなく鮮度を重視」したと説明しています。毎日同じ料理に使う買い手にとっては、鮮度や、量と規格が年間を通してそろうことが、大きさや形の見栄えに加えて意味を持ちうる、と読めます。自分の作物のそうした価値は、いまの取引先にどう受け止められているでしょうか
- 量と時期を前もって決める関係。 会社の説明では、決めた量を計画どおりに生産してもらい、収穫した全量を買い上げることで、生産者は安定収入が見込めるとされています。その裏側には、季節や天候に左右される畑で、約束した量を約束した時期にそろえるという仕事があります。自分の畑に置き換えると、どこが難しく、どこなら応えられそうでしょうか
- 「売れているのがおいしい」を、畑に置き換えると。 作り手が「いい野菜だ」と思うことと、相手の料理の中で何年も選ばれ続けることは、同じとは限りません。正垣氏が戒めた「思い込み」は、自分の仕事のどこにあるでしょうか
一皿320円(2026年10月の改定の前は300円)のドリアの裏には、まかないから生まれた料理を、値下げのあとも出し続けるための工場があり、店の人が変わっても同じ味になるよう手間を移す工夫があり、そのさらに手前に、レタスの苗と、契約農家との量と規格の約束があります。会社の公開資料からは、毎日同じ一皿を出し続けることが、こうした工夫の積み重ねの上にあることが読み取れます。自分の野菜が、だれかの毎日の一皿にどうつながっているのか。それを知ることは、自分の作物の価値を考え直す手がかりになると、NouManは考えます。
補足
この記事は、2026年10月29日時点の公開資料をもとにしています。最新情報は、同社の公式サイト等でご確認ください。
出典
- 有価証券報告書 第53期(2025年8月期)(主要な設備 p.20〜21) 公式IR(PDF)
- 2026年8月期 決算短信(p.2 組織の変更・メニュー価格の方針、p.17〜18 セグメント情報) 公式IR(PDF)
- 2026年8月期 決算説明会資料(p.5 単体業績、p.20 客数客単価-国内、p.23 営業利益増減) 公式IR(PDF)
- 2025年8月期 決算説明会資料(p.22 営業利益増減) 公式IR(PDF)
- 公式サイト「自社工場の取り組み」「サラダ」、SDGs「原材料の安定調達」(2026-10-21 に確認) 公式サイト「自社工場の取り組み」
- 新卒採用サイト「サイゼリヤの歩み」「バーティカルマーチャンダイジング」「フードサービス業・農業を産業化」(2026-10-21 に確認、掲載日の表示なし) 採用サイト「バーティカルマーチャンダイジング」
- 10月29日(木)価格改定のお知らせ 発表(PDF)
- 地域価格店舗のお知らせ 発表(PDF)
- はじめに:『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(正垣泰彦。単行本は日経BP、2011年) 日経BOOKプラス












