モスバーガーとサイゼリヤ、二つの戦略手間をどこに置いたか
公開 2026年10月27日

この記事は「モスバーガーとサイゼリヤ、二つの戦略」の前編です(全2回)。
サイゼリヤは手間を工場に寄せ、モスは店に残した。両社が何を選び、そのために何を引き受けたと自ら書いているのかを、工場・店・畑の役割から追う前編です。
サイゼリヤの公式サイトには、「なぜ、サイゼリヤはこんなに安くておいしいのか?」という問いが書かれている。答えとして挙げられているのは、自社の工場だ。
モスバーガーの統合報告「MOS REPORT 2026」には、店で生野菜を手洗いして仕込み、注文を受けてからつくる方式について、「効率よりも品質を優先するこの姿勢」という言葉がある。
どちらの会社も、品質と価格を切り離さずに語っている。違うのは、手間をどこに置いたかだ。サイゼリヤは手間を工場に寄せ、店の作業を減らしてきた。モスは店に手間を残し、その手順を全国でそろえてきた。前編では、両社が何を選び、その選択について何を書いているのかを、会社の公開資料から追う。
先にまとめると
- サイゼリヤは工場で食材を「すぐに使える形」にし、店の作業を減らしてきた
- モスは丸のまま届く生野菜を店で仕込み、注文を受けてからつくる
- サイゼリヤは値下げで原価率が上がったと、モスは効率より品質を優先すると書く
(いずれも会社の説明から)
この記事での書き分け
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 公表されていること | 有価証券報告書・統合報告・発表資料の数字や記載 |
| 会社の説明 | 会社が公式サイトや資料で述べている考え・目的・経緯 |
| NouManの読み解き | それらを組み合わせたNouManの解釈。枠の中や「〜と読める」で示す |
1.同じ「品質と価格」、逆を向いた「標準化」
サイゼリヤは、原料の調達から加工、配送、店での提供までを自社で行う仕組みを「製造直販」と呼ぶ。公式サイトの説明はこうだ。「最大のメリットは、品質と価格を自分たちでコントロールできることです」。
モスは統合報告の社長メッセージで、「なぜモスは高付加価値の商品を生み続けられるのか」という問いを自ら立て、答えの核を「当社独自の商品開発力と調達力」に置いている。同じメッセージには、「モスのおいしさは、厳選された生野菜、できたての温かさ、そして人の手によるひと手間によって支えられています」とある。
「おいしさ」の中身も、それぞれの言葉で書かれている。サイゼリヤが就職希望者に向けて仕事や企業文化を紹介する採用サイトは、「一口食べてびっくりするような味」を「おいしい」と定義していないとし、目指すのは「多くの人が毎日でも食べられるような、究極を言えば『空気』のような味」だと書く。
両社とも「標準化」という言葉を使う。ただ、向きが違う。
サイゼリヤの有価証券報告書は、取り組むべき課題として、工場(会社は「コミッサリー」と呼ぶ)で店への配送の方法や形を工夫し、「店舗の作業負荷を減らし効率化をはかります」と書き、店のキッチンやフロアの作業の標準化を挙げる。モスの統合報告は、「店内で生野菜を手洗いして仕込む工程や、ご注文を受けてからつくるアフターオーダー方式を全国で標準化しています」と書く。
一方は店の作業を減らす方向にそろえ、もう一方は店の手作業を残したまま、そのやり方をそろえている。
2.サイゼリヤの選択:値段を下げ、増えた量を工場で受け止めた
サイゼリヤの最初の自社工場は、1997年に建てた埼玉の吉川工場だ。ドリアの値下げより前で、目的は店の作業を減らすことだった。公式サイトは、この工場を「店舗作業の負担軽減を目的に設立された最初の工場」と紹介している。採用サイトが紹介する創業からの歩みには、当初は生産の技術に疎く「様々なトラブルが多発」し、「発売開始から数週間で販売中止になった商品もあった」と書かれている。

2年後の1999年、会社はいちばん売れているミラノ風ドリアを480円から290円に下げた。公式サイトは理由を「もっと多くのお客様に喜んでいただきたい」という思いからと書き、「一番売れているメニューを値下げするという、大きな決断でした」と続ける。
この判断で何を引き受けたのかも、会社は書いている。採用サイトの歩みによれば、商品の売上数量は「3倍近く」になった。そして「当然原価率は上がり、客単価も下がった」。
値下げのあとにも、工場は続いた。2000年7月にオーストラリアに食材をつくる子会社を設け、2001年には福島に精米の工場を建てた。福島工場について、公式サイトは「ミラノ風ドリアの販売量の拡大に伴い、2001年に建設」と書いている。いまはドリア用のターメリックライスや白米の精米と炊飯の大部分を担い、全店に届けている。オーストラリアの工場ではホワイトソースやミートソース、ハンバーグを、千葉の工場ではトマトソースをつくる。神奈川の工場は、サラダなどの生鮮品の一次加工や、大きな缶のオリーブオイルの小分けを受け持つ。
公式サイトは、こうした工場の役割をまとめてこう書く。原料は「店舗で調理しやすいように自社工場で加工して、すぐに使える形で届けています」。それによって片づけや保管がしやすくなり、調理の手間も減り、「品質の安定と提供時間の短縮」につながる、と。
店に残る仕事にも、そろえる工夫がある。1995年には店の調理をガスのオーブンからコンベア型のオーブンに替え、採用サイトの歩みは「だれでも一定の品質の料理が作れ」るようになったと振り返る。ドリアは、店のオーブンで焼いて出される。
サイゼリヤ:手間を工場に寄せる流れ(会社の説明から)
対象: サイゼリヤの国内の店で使う食材の主な流れ、公式サイト「自社工場の取り組み」「原材料の安定調達」、人気メニュー「ミラノ風ドリア」(2026年10月25日確認)/いずれも会社の説明。主な流れの並べ方で、全品目の手順ではありません。配送の担い手や温度帯、店での調理の範囲の細部は公表されていません
出典: サイゼリヤ 公式サイト「自社工場の取り組み」、SDGs「原材料の安定調達」、人気メニュー「ミラノ風ドリア」
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
会社の説明を年の順に並べると、サイゼリヤの工場づくりには二つの流れが見える。最初の吉川工場は、値下げより前に、店の作業を減らすために建った。福島工場は、値下げで増えたドリアの量を受け止めるために建った、と会社自身が書いている(値段の判断と工場を会社が結び付けているのは、この福島工場だけだ)。工場が手間を引き受けた効果を、会社は「品質の安定と提供時間の短縮」と書く。値下げの判断で引き受けたものとして会社が挙げるのは、上がった原価率と下がった客単価だ。工場を持つことの負担については、1997年の工場の立ち上げのつまずきを自ら書き残している。ドリアと工場の話の細部は、「ミラノ風ドリアを、毎日出し続けるために ─ サイゼリヤが苗から店まで重ねてきた工夫」でたどっている。
3.モスの選択:丸のまま届く野菜を、店で仕込む
モスの公式サイトは、モスバーガーの作り方を13の手順で紹介している。1番目は「トマトを輪切りにする」。4番目は「バンズの内側だけを焼く」。パティを焼き、玉ねぎやミートソースをのせ、10番目で「トマトを慎重にのせる」。

野菜は、丸のまま店に届く。2012年の発表は「毎日店舗にまるごと納品される生野菜」と書き、2016年の発表は、店の人が産地で収穫した野菜を店で出す「産直野菜フェスタ」を、「丸のまま納品された生野菜をお店で仕込みをしている、モスバーガーならではのもの」と説明している。野菜は通いコンテナで運ばれる。会社は理由を「大量の資源ごみの削減および品質劣化を防止するため」と説明する。
注文を受けてからつくる方式を、会社は「創業以来守り続ける」ものとしている。ただ、創業のときにこの方式を選んだ経緯や理由は、今回読んだ資料には書かれていない。
工場の持ち方は、サイゼリヤと逆だ。統合報告は、モスを「自社工場をほとんど持たないファブレス型のビジネスモデル」と書く。食品の製造を委ねる工場(生産委託先)は約90社ある。ただ、この一文が置かれているのは財務の特長を述べる項だ。ファブレスに強固な加盟店の仕組みを合わせた「アセットライト経営」について、「この事業構造により、安定的かつ強いキャッシュ創出が可能」と書かれている。委託先が何をつくり、どんな状態で店に届くのかは、今回読んだ資料には書かれていない。
モス:手間を店に残す流れ(会社の説明から)
※契約産地は2025年度
対象: モスバーガーの国内の店で使う生野菜の主な流れ、公式サイト「食材がお店に届くまで(生野菜)」、発表資料(2012年・2016年)、MOS REPORT 2026(2026年10月25日確認)/いずれも会社の説明・公表値。主な流れの並べ方で、全品目の手順ではありません
出典: モスフードサービス 公式サイト「食材がお店に届くまで(生野菜)」「取引先とともに」、発表資料(2012年8月29日、2016年7月21日)、MOS REPORT 2026(冊子7〜8頁・17〜20頁)
冒頭の「効率よりも品質を優先するこの姿勢」も、文脈ごと読む必要がある。この言葉は、統合報告(2026年10月掲載。主な対象は2026年3月期)で、会社が自らの強みを支える資産を説明する項に出てくる。指しているのは「クラフトマンシップ(店内調理へのこだわり)」、つまり店で生野菜を手洗いして仕込む工程と、注文を受けてからつくる方式だ。
同じ報告は、効率化そのものを退けてはいない。セルフレジを入れた店では、入れていない店と比べて売上成長率が1.6%向上し、人件費率が1.2%減ったと書き、「効率化で生み出した余力を接客の質向上に振り向ける」としている。社長メッセージは、会計や注文の処理をデジタル化する領域に、生野菜の仕込みを「人が担う領域」に分け、「トマトやレタスなどの生野菜の仕込みといった、おいしさの根幹に関わる手作業は守る必要があります」と書く。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
モスの「効率よりも品質」は、店のすべての作業についての言葉ではない。会社の資料では、効率化する仕事と、手で残す仕事が分けられ、生野菜の仕込みと注文後の調理が残す側に置かれている。会社は「引き受けた」とは書いていないが、その部分では効率を手放して手間を取った、とNouManには読める。サイゼリヤも、人気商品は「工場で効率よく生産することが可能です」と書く。両社とも効率を求めていないわけではなく、どこで効率を取り、どこで手間をかけるかの線の引き方が違う。
4.畑の側から見ると:規格に表れる置き場所
野菜の調達では、両社に共通する点が多い。
どちらも産地と契約し、量や規格を前もって決める。サイゼリヤは「産地の契約農家と規格や購入量を決め、年間を通して安定した出荷ができる仕組み」をつくったと書く。モスの契約産地は全国133産地(2025年度)で、出荷する農家は「産地台帳」を出し、モスが確かめて登録する。
どちらも、繰り返し使う箱で野菜を運ぶ。サイゼリヤは専用のコンテナで「農家の梱包作業を軽減」し段ボールを減らすと書き、モスは先の通いコンテナの理由を挙げる。どちらも、天候によって産地や原料が変わる場合があると注記している。
違いが見えるのは、規格の軸だ。
サイゼリヤは「規格の段階でサイズや見た目ではなく鮮度を重視し、産地で捨てられる野菜を減らしました」と書く。福島工場ではレタスの苗を育てて契約農家に渡し、サラダ用の集荷と出荷も担う。
モスのレタスには「7分結球」という基準がある。会社は、約30年前から取引する熊本のJAれいほくモスレタス部会との取り組みのなかで「生まれた基準」と説明している。トマトについては、生産者と共同で出資した農場「モスファーム千葉」が育てる品種を、「モスバーガーで使用する輪切りに適したトマト」で、「モスバーガーの規格サイズであるL玉」が多くとれると紹介している。モスファームは、北海道から熊本まで7社ある。
NouManの読み解き事実を踏まえた、Workerプラス編集長の見方
規格の軸には、それぞれの会社が手間をどこに置いたかが表れている、と読める。モスの資料では、産地で育てるトマトが「モスバーガーで使用する輪切りに適した」品種として紹介されている。サイゼリヤは、サラダなどの生鮮品を工場で一次加工して届けると書く。ただし、サイゼリヤが鮮度を軸にした理由として書いているのは「産地で捨てられる野菜を減らしました」ということで、工場で加工するからだとは書いていない。つながりは、あくまで資料を並べたときの見え方だ。
生産者から見れば、取引先の規格を「その野菜が相手のどの工程で、どんな形にされるのか」から読むことができる。苗を渡されるのか、量を約束するのか、共同で農場をつくるのか。関わり方の層も、会社によって違う。特定の会社が特定の作物や規格を求めているという意味ではない。
前編の終わりに
サイゼリヤは工場に、モスは店に手間を置いた。サイゼリヤは値下げで原価率が上がり客単価が下がったことを自ら書き、モスは店内調理について「効率よりも品質を優先する」と書いている。モスがその部分で効率を手放したと見るのは、NouManの読みだ。
では、その選択は、どんな値段と店の形で続けられているのか。後編では、値段の決め方と2026年の価格改定、店をだれが運営しているのかを追う。
補足
この記事は、2026年10月27日時点の公開資料をもとにしています。最新情報は、各社の公式サイト等でご確認ください。
出典
- 自社工場の取り組み(公式サイト) 資料を開く
- 有価証券報告書 第53期(2025年8月期) 公式IR(PDF)
- 「おいしさ」の考え方(採用サイト) 資料を開く
- サイゼリヤの歩み(採用サイト) 資料を開く
- ミラノ風ドリア(公式サイト) 資料を開く
- 人気メニュー「ミラノ風ドリア」(公式サイト) 資料を開く
- 原材料の安定調達(公式サイト) 資料を開く
- MOS REPORT 2026(統合報告) 公式IR(PDF)
- モスバーガーのひみつ(公式サイト) 資料を開く
- 「モスの生野菜」店頭販売を本格的に開始 発表(PDF)
- 「モスの産直野菜フェスタ」延べ50開催へ 発表(PDF)
- 食材がお店に届くまで(生野菜)(公式サイト) 資料を開く
- モスの生野菜(公式サイト) 資料を開く
- 産地だより 第9号 JAれいほくモスレタス部会 PDF
- 産地だより(モスファーム千葉、2019年1月) 資料を開く
- 取引先とともに(企業サイト) 資料を開く











